ノートPCのCPU交換

一、ノートPCのCPUは交換可能か
 PCメーカーないしベンダーが販売するノートパソコン(laptop)のCPUは交換できるのか。Webの質問掲示板ではこれに類する質問がこれまで何度も繰り返されてきた。

 既製のノートPCのCPUは、交換できる場合もあれば、できない場合もある。ノートPCの機種次第である。これが正しい回答である。ところが、ノートPCのCPUは換装できないと思い込んでいる人が、ある程度PCに詳しい人の中にも少なからずいることに驚かされる。ノートPCは、CPUを交換することを前提に作られておらず、特殊な構造をしているから、あるいはノートPCのCPUは直付けされているから、交換することは困難ないし不可能だと思い込んでいるのである。

 そもそもCPUが交換可能か否かは、ノートPCに搭載されているCPUのパッケージによって大きく分かれる。これについては、「dynabookのCPU交換」の追記でも触れたが、ここで改めて素人ながら概観しておく。

 半導体等の電子部品の外形を構成する部分はパッケージ(外周器)と呼ばれ、様々な規格が存在する(「パッケージ (電子部品)」、Wikipedia参照)。その中でCPUのパッケージには、主にBGA (Ball Grid Array)PGA (Pin Grid Array)LGA (Land Grid Array)の3種の規格が用いられている。

■ BGAパッケージとは、パッケージ底面に球状のハンダボール(ball)が格子状に配列されたものをいう。gridは格子、arrayは配列・配置という意味である。BGAのCPUは、基板(マザーボード、メインボード)に直接ハンダ付けされ(俗に「直付け」などと呼ばれる)、CPUの着脱を可能にするソケットという受け口は通常用いられない。ソケットを使用しない分、基板にCPUを装着した場合の高さを低くを抑えられるという利点があるとされる。

■ PGAパッケージとは、ハンダボールの代りにピン(pin)が格子状に配列されたものをいう。これを受けて固定するために基板にソケットが装備される。

■ LGAパッケージとは、landと呼ばれる電極パッドが格子状に配列されたものをいう。これも通常、実装にはソケットが用いられる。

 Intelでは、デスクトップ向けのCPUの多くは、LGAとなっており、主にモバイル向けのCPUにPGAとBGAのパッケージが使われている。これに対し、AMDでは、LGAパッケージのCPUは製造されておらず、デスクトップとモバイル両者にPGAとBGAが採用されている。

 また、CPUの種類を表すのに、パッケージそのものを表示するのではなく、パッケージに対応するソケットの種類を用いることが多い。Intelでは、CPUの「パッケージの仕様」項目に「対応ソケット」として、「PGA478」、「LGA2011」といったようにパッケージの種類と数字が記載されている(Socket M、Socket G1といったソケットの名称もあるが、公式サイトのCPUの仕様では使われていない)。これらの数字は、ピンや電極パッド等の端子の数を表している。AMDでは、「Socket FM2」、「Socket FP2」といった表記が用いられ、表記自体からはPGAなのか、BGAなのかは判別できない。しかし、Intelに比べれば、ソケットの種類は少なく、汎用性が高いので、FM2はPGA、FP2はBGAなどと確認しておけば問題はない。

 このようにノートPCには、PGAとBGAという2種類のパッケージのCPUが使われるが、一般的にはPGAであれば、簡単にソケットからCPUを着脱させることができるのであるから、交換も可能となる。BGAの場合は、CPUが基板に半田付けされ、さらに補強剤としてアンダーフィル剤が塗布されていることもあるため、それを取り外し、再び他のCPUを取り付けることは容易ではないということになる。もっとも、稀ではあるが、PGAであっても半田付けされる場合もあるようである。

 基板に半田付けされた半導体を取り外して、再度取り付ける作業をリワーク(Rework)と専門家は呼ぶ。それを行うには、リワーク装置という特殊な機械とリワークに関する専門的な知識・技術が必要とされる。従って、BGAのCPUの交換は、我々素人には容易ではない、というよりもむしろ事実上不可能というべきかもしれない。リワークを請負う専門の会社の多くは法人を相手にしているが、中には個人の単体依頼を受けてくれるところもあるので、どうしてもBGAのCPU交換を行いたいという場合は、Webを探してみるとよい。

※ 参考:
 『超小型LSI部品 BGA/CSP の交換工法』、PFU
 https://www.pfu.fujitsu.com/about/technology/no27/images/27-11.pdf
 『BGA、CSP技術解説』、エムエスエンジニアリング
 http://www.mseng.co.jp/new/ja/doc/report_j1.pdf
 『ファインピッチBGAの実装技術開発』、沖電気
 https://www.oki.com/jp/Home/JIS/Books/KENKAI/n189/pdf/189_R14.pdf

 ここで、IntelのMobile CPUのパッケージないし対応ソケットについて注意すべきことがある。Intelは、BGAだけの製品(例えば、i3-3217UはFCBGA1023のみ)とPGAだけの製品(例えば、i3-3120MはFCPGA988のみ)も提供しているが、多くの場合、同一CPUに対してBGAとPGAの2種のパッケージを用意しているという点である。例えば、Intel Core i7-3612QM Processorには、対応ソケットがFCPGA988のものとFCBGA1224のものとが異なる製品名として存在し(http://ark.intel.com/ja/compare/67356,64901)、i3-3110Mは、対応ソケットがFCBGA1023とFCPGA988の2種が製造されている(http://ark.intel.com/ja/products/65700/Intel-Core-i3-3110M-Processor-3M-Cache-2_40-GHz)。そのようなCPUがノートPCやモバイルPCに搭載されている場合には、そのCPUにどちらのパッケージが使われているか、通常、PCの仕様書に記載されていない以上、PCが手元にあれば、CPUの情報を表示するソフトで確認するか、若しくはPCを分解して実際にCPUを確認する。手元になければ、WebでそのPCを分解した画像等を調べるしかないであろう。つまり、検索画像・動画などから基板上のCPUの様子を見て、CPUがソケットに載っていれば、PGA、直に基板に載っていれば、BGAと判断することになる。

 もっとも、Intelは、2013年頃からパッケージをBGAだけとするモバイル向けCPUを多く出している。例えば、IntelのProcessor Feature FilterというWebページにおいて、Code Nameを"Haswell"とし、Sockets Supportedを"FCPGA946"として検索すると、22製品、"FCBGA1364"とすると、22製品、"FCBGA1168"とすると、40製品が挙る。それ以降のBroadwellやSkylakeのモバイル向けCPUは、ほとんどがFCBGAのみとなっている。同様に、AMDも2014年以降のモバイルCPUは、ソケットがFP3、FT3、FP4、FT4となっており、全てBGAとなっている。今後、これらを搭載したラップトップのCPUは、残念ながら事実上換装不可能となる。

 因みに、PPGA(Plastic Pin Grid Array)FCPGA(Flip Chip Pin Grid Array)の相違については、"Package-Type Guide for Intel Desktop Processors"に解説がある。

二、CPU交換手順と注意点
 手元にあるノートPCについて、そのCPUが交換可能どうかをどのようにして確認するのか、交換可能だとしてどのCPUが動作する可能性が高いのか、どのようにPCを分解すればよいのか等々、少し面倒なことがあるため、メモリの増設やHDD・SSDの交換を行ったことがある人でもことCPUの交換となると、二の足を踏むかもしれない。

 そこで、CPUの実物を見たことも触れたこともない人を念頭に、ノートPCのCPUの交換を試みたいと考えている人のために、CPUを交換する一般的な手順及び注意点を思いつくままに書きしるしておく。AMDのCPUは載せ換えたことがないので、IntelのCPUについて書き進めるが、AMDのCPU交換にも参考となるのではなかろうか。

1. CPUの確認
 先ず、当のノートPCのCPUが交換可能かどうかを確認する必要がある。Windowsであれば、コントロールパネルの「システム」を開けば、CPUの製品名は確認できるが、パッケージないし対応ソケットまでは表示されない。そこで、自作機ではCPU等の詳細な情報を確認するためによく使われているCPU-Zというソフトを用いてCPUの製品名やパッケージを確認する。

 CPU-Zの「Package」の欄に「BGA」という表示があれば、上述したように残念ながらCPUの交換は諦めるほかない。

 そこに「PGA」とあれば、取り敢えず交換することは可能となる。

 とはいえ、CPU-Zの表示が誤ることも皆無ではなく、直接CPUを視認する方が間違いがないかもしれない。

2. CPUの選定
 さて、どのCPUに交換すべきか、である。交換可能だとしても、いずれのCPUでも動作するわけではない。

 CPU-Zで確認した搭載CPUの製品名又はプロセッサー・ナンバー(AMDではモデル・ナンバーと呼ばれる)をもとに、「インテル製品の仕様情報」というIntelのサイトで、CPUの仕様を確認する。CPU選定に当たってメルクマールとなる仕様項目は、対応ソケット、開発コード名、発売日等である。

(1). 同一又は互換性のある対応ソケットであること
 交換するCPUと交換されるCPUとが同一ないし互換性のある対応ソケットでなければ、交換はできない。対応ソケットが異なれば、物理的にCPUをソケットに装着することすらできない。何はともあれ、Intelの仕様情報を確認することになるが、稀にi5-4310M(rPGA946B)などのように対応ソケットについて表示がない場合は、他のサイト(CPU-World等)を利用することもあろう。

 ところで、これまで幾度となく問題とされてきたPGA988PPGA988FCPGA988との互換性については、質問掲示板等において様々な見解が披露されているが、同一世代内であれば、Intelは「これらソケットの互換性はある。しかし、プロセッサーが機能するかどうかは最終的にBIOS次第である」と再三にわたって発表している("Differance between PGA988 and PPGA988 CPU socket?"、"PGA988, PPGA988 and FCPGA988"、"What is the difference between socket PPGA988 and FCPGA988?"等々)。にもかかわらず、今以て、これらには互換性がなく、一方のCPUに対応するソケットは他方のCPUには使用できない、とまことしやかに解説されることがある。これは、ひとたび虚偽の情報がWebに流れると、やがてそれは調査も確認もなされないまま真実であるかのごとく扱われることになる、という典型事例の一つである。自戒すること多なり。

 正確には、これらのパッケージは、大きくrPGA988AとrPGA988Bの2種に分けられる。確かに、両者はピンの位置が一か所異なっており、両者に互換性はない。図-Aと図-Bを見比べれば、一目瞭然である。詳細については、"Intel Core i7-600, i5-500, i5-400, i3-300 Processor Series: Vol. 1"、"Mobile 3rd Generation Intel Core Processor Family, Mobile Intel Pentium Processor Family, and Mobile Intel Celeron Processor Family: Vol. 1"等のdatasheetの'Package Mechanical Information'にあるパッケージの外形図をご覧頂きたい。しかしながら、あくまでrPGA988Aは、ClarksfieldとArrandaleのパッケージであり、rPGA988Bは、Sandy BridgeとIvy Bridgeのパッケージであって、前2者と後2者との間に互換性はないものの、少なくとも同一世代内である限り、互換性は保たれているのである。

 但し、rPGA988Aに対応するソケットはG1、rPGA988Bに対応するソケットはG2と呼ばれ、G1はパッケージと同じ988個のピンホールを持っているが、実はG2は989個のピンホールを持っている(988個のものもある。下記の【追記】参照)。下の画像を見れば分かる通り、rPGA988Bパッケージは、G1には装着不可能だが、rPGA988Aパッケージは、G2には物理的に装着することはできるのである。勿論、装着できたからといって動作する訳ではない。G2をG1としても使用することが可能なように、マザーボード・メーカーへ配慮したのであろうか。その設計意図は未だ調べきれていない。

 図-A rPGA988A                        図-B rPGA988B
 CPU_rPGA988A-1 CPU_rPGA988B

 図-C Socket G1                        図-D Socket G2
 CPU_Socket_G1 CPU_Socket_G2

※【追記】
 G1及びG2のソケットについては、Intelが公開している"2nd Generation Intel Core Processor Family Mobile"という文書の'1.3 Referenced Documents'に、"rPGA988/989 Socket Application Guide - Doc#419940"という文書が挙っている。ところが、この文書は、Intelのサイトで検索しても見つからず、おそらく企業向けであって、一般には公開していないようである。
 ただ、TE connectivity社の"Introducing Sockets for rPGA989 and rPGA988 Processors"という製品紹介文書には、rPGA989、rPGA988A、rPGA988Bの3種のソケットが紹介されており、G2にはrPGA988Bにぴったりと適合するピンホールが988個のソケットも製造されていることが分かった(図-E)。しかし、rPGA988Bソケットとは別にrPGA989ソケットが存在する理由は依然不明のままである。(2016.11.3)

     図-E("Introducing Sockets for rPGA989 and rPGA988 Processors"より)
     CPU-rPGA988AB-989

 具体的には、モバイル向けSandy Bridgeは全部で68製品あるが(http://ark.intel.com/products/codename/29900/Sandy-Bridge#@Mobile)、その内、PGAパッケージのCPUは、35製品あり、PGA988は、4製品、PPGA988は、12製品、FCPGA988は、20製品となっている(Pentium B960だけは、PGA988とFCPGA988の両パッケージが製造されている)。PPGA988の製品は、このSandy Bridgeにだけ存在し、この3種が揃っているのもSandy Bridgeだけである。
 PGA988には、Pentium B960、Pentium B950、Pentium B940、Celeron B810があり、
 PPGA988には、i7-2640M、i7-2620M、i5-2540M、i5-2520M、i5-2450M、i5-2430M、i5-2410M、i3-2370M、i3-2350M、i3-2330M、i3-2312M、i3-2310Mがあり、
 FCPGA988には、Pentium B980、Pentium B970、Pentium B960、Celeron B840、Celeron B830、Celeron B820、Celeron B815、i7-2820QM、i7-2760QM、i7-2630QM、i5-2510E、i3-2328M等々がある。
 製造元のIntelが言うように、BIOSが対応する限りは、これらの製品は相互に交換可能なのである。要するに、rPGA988Bのパッケージの中にPGA988・PPGA988・FCPGA988の3種があり、これら3種の相違自体は互換性を阻む要素ではないということである。

 Intelの仕様情報を見ると、PGA988と表示されているモバイルCPUは、上記Sandy Bridgeの4製品以外に、Clarksfieldの6製品、Arrandaleの21製品があり、FCPGA988と表示されているモバイルCPUは、同じくSandy Bridgeの20製品以外に、Ivy Bridgeに31製品がある。つまり、PPGA988及びFCPGA988は、rPGA988B型のみであるのに対し、PGA988には、紛らわしいことだが、rPGA988A型とrPGA988B型の2種類があり、当然両者には互換性がないので注意を要する。

(2). 開発コード名が同一であること
 開発コード名(Code Name)は、Intelでは近時、世代(Generation)で区別するようになったが、それが同じであるということは、マイクロアーキテクチャ(Microarchitecture、CPUの内部的な設計・構造などを指す)が同じであることを示している。それに合わせてマザーボードが開発・製造されている。従って、コード名が同じであれば、同じマザーボードで動作する可能性は高いことになる。勿論、異なるコード名であっても、同一のマイクロアーキテクチャであれば、動作する可能性はある。

 さらには、異なるマイクロアーキテクチャに属するCPUであっても、前掲の第3世代のdatasheetの'1.6 Processor Compatibility'にあるように、Ivy BridgeとSandy Bridgeといった近似するマイクロアーキテクチャに属するCPUに対応しうるマザーボードは存在することになる。しかし、実際に、当のマザーボードがそれにあたるかどうかを判断することは、PCメーカーがそういった情報を公開しない以上、容易ではない。

 IntelのMobile CPUの主なマイクロアーキテクチャとコード名は、P6マイクロアーキテクチャ(Banias、Dothan、Yonah)、Coreマイクロアーキテクチャ(Merom、Penryn)、Nehalemマイクロアーキテクチャ(Clarksfield、Arrandale)、Sandy Bridge、Ivy Bridge、Haswell等々がある。Sandy Bridge以降は、マイクロアーキテクチャ名とコード名はほぼ同じである。

 因みに、Desktop CPUの主なマイクロアーキテクチャとコード名は、NetBurstマイクロアーキテクチャ(Northwood、Prescott、Smithfield、Presler、Cedarmill)、Coreマイクロアーキテクチャ(Conroe、Kentsfield、Yorkfield、Wolfdale)、Nehalemマイクロアーキテクチャ(Bloomfield、Lynnfield、Clarkdale、Gulftown)、Sandy Bridge、Ivy Bridge、Haswell等々である。

(3). CPUの発売日が、当のPCの発売日より前であること
 CPUは、通常の命令をマイクロコード(Microcode)[*]と呼ばれるさらに細かな命令に分けて実行しており、CPUは起動時にBIOSからマイクロコードを読み込むとされる(http://ascii.jp/elem/000/000/178/178461/)。CPUにエラッタがある場合、更新されたマイクロコードがBIOSの更新を通じて提供され、エラッタが修正されることもあるようである。勿論、新たなステッピングでエラッタは修正されるであろうが、修正される前のステッピングのCPUはマイクロコードで修正するしかないのである。CPUマイクロコードは、各CPU毎に用意されているとのことであるから、PCの発売日以降に発売されてたCPUに対するマイクロコードがそのPCのBIOSに存在するとは通常考えらない。従って、PCよりも新しいCPUは、物理的に装着できたとしても、機能することはないであろう。
 なお、仕様の「発売日(Launch Date)」にある「Q1'12」とは、「2012年第1四半期」を意味する(Q1: First Quarter)。Q2は第2四半期、Q3は第3四半期、Q4は第4四半期である。また、おそらく2005年以前の発売と思われるモバイルCPの多くは、発売日の記載が仕様にない。

* マイクロコードについては、「マイクロプログラムはCPUのマイクロコードとしても知られている。マイクロコードはCPUの各マイクロ命令を1つの状態とした、状態遷移表をメモリであらわしたものと捉えることができる。マイクロコードは(ファームウェアの一部として)ROMに格納されていることもあるし、CPUの初期化の一環としてRAMにロードされることもある。このため広義には、CPU以外を含むファームウェア全般をマイクロコードと呼ぶ場合もある。コンピュータの電源投入時に、マイクロコードをロードする過程をIML(イニシャル・マイクロコード・ローダー)とも呼ぶ。またマイクロコードが格納されているメモリをコントロールストアと呼ぶ。」(「マイクロプログラム方式」、Wikipedia)と説明されている。

 確かに、BIOSの更新があれば、マイクロコードの追加・更新があるとも考えられる。しかしながら、PCメーカーは、購入者がPCを分解した時点で保証の対象外とし、責任を負わないとするのが通例であることからすれば、購入者がCPUを交換することまで配慮する義務をメーカーが負うはずもなく、新たに発売されたCPUに対応させるべく、新たなマイクロコードを提供するためにBIOSの更新を行うことなど通常は考えられないであろう。しかしながら、稀にBIOSの更新によってCPUが認識されたという事例もあるので(http://blog.phooen.com/blog-entry-61.html#comment100)、BIOSは最新のものに更新しておくに越したことはない。

 なお、自作機などでは、新たなCPUにBIOSが対応していない場合、自力でBIOS内のマイクロコードを最新のものに書き換えるといったことも行われている("How to Update CPU Microcode in Award or Phoenix BIOS - For LGA 771 & 775")。Intelは、サポートのWebページを通じて("Linux Processor Microcode Data File")Linux向けのマイクロコードのデータファイルを提供している(「Intelのドキュメント化されていないマイクロコードアップデート用のバイナリの考察」、「マイクロコード」等参照)。

 また、Microsoftは、IntelのCPUのエラッタに対処するために、KB 3064209:「2015年6月付のWindows用インテルCPUマイクロコード更新プログラム」を用意している。但し、これはあくまでOS上で行われるマイクロコードのアップデートであるため、BIOS等でオーバークロックなどの設定を行っている場合には、不都合が生ずるようである。やはり、マイクロコードのアップデートはBIOS上で行われる方が問題がないようである。

※【追記】
 同じプロセッサー・ナンバーのCPUに交換していながら、動作する場合と動作しない場合がある。これは、ステッピング("Learn about Processor Core Stepping")の違いによるのではないかと考えられる。

 例えば、「dynabookのCPU交換」にある通り、 EX/33Jにおいては、P8400やP8600が動作する場合としない場合がある。各PGA478のステッピングを見ると、M0とR0とがある(P8400の「オーダー/sSpec/ステッピング」P8600の「オーダー/sSpec/ステッピング」)。R0コア・ステッピングはM0コア・ステッピングよりも新たに修正・改良されたものであるから、当該機のBIOSが古いM0には対応しているが、より新しいR0には対応していないと考えられるのである。

 これまで見てきたように、既製PCは、新たなステッピングに対応するためにBIOSの更新が提供されることがほとんどないので、このような事態が起こるのである。従って、交換用のCPUを探すに際し、あえて古いステッピングを選ぶために、sSpec Number(スペックコード)に注意を払う必要がある場合もある。(2016.11.28)

(4). その他留意すべきこと Penryn以前のCPUにおいては、チップセットとの関係でFSB(Front Side Bus)のバススピード(Bus Speed)に注意が必要である。たとえ認識されても、基板上のチップセットが対応しうるFSBを超えて、CPUがその能力を発揮することは勿論できない。Arrandale以降は、DMI(Direct Media Interface)等の最大転送帯域幅は同一世代では通常同じであるから、ノートPCではこの点が問題となることはほとんどない。

 TDP(Thermal Design Power、熱設計電力)の相違は、BIOSによる交換CPUの認識自体には影響がないが、TDPの高いCPUに交換した場合、CPUの温度には注意が必要である。CPUがあまり高温になるようであれば、ノートPC用の冷却サプライ用品などが必要となる場合もあろう。

 これらの条件に合致するCPUの中から、少しでも性能の高いCPUを選ぶことになろう。特に、そのPCの上位機種に使われているCPUは、交換に成功する可能性は非常に高く、有力な候補となる。同種の基板、同種のBIOSで動作しているCPU同士であれば、動作可能性が高まるのは当然である。PCのメーカーないしベンダーのサイトで上位機種等の仕様を調べてみるとよい。また、ブログ等において同型のPCでCPU換装に成功した事例が紹介されている場合には、そのCPUは最も確実な候補となる。

 いくつか候補が挙ってくれば、ショッピングサイトやオークションサイトで価格を見比べながら、望む性能との兼ね合いを計りつつ、最終的な決断を下すことになる。勿論、条件が合えば、譲り受けたり、他のPCから取り外したCPUを交換用とすることもあろう。

3. CPUの交換作業
 CPUの交換前に、BIOSの更新がある場合は、更新しておく。前述したように新たなCPUのサポートを考慮してBIOSが更新されるということは通常考えにくいが、念のためである。CPUを扱うに際しては、静電気による損傷やピンの曲がりを防ぐため、くれぐれもCPUの端子には触れないように。

 メーカーあるいは機種によって、CPUにたどり着くまでのPCの分解手順・方法が非常にややこしい場合もあるので、先ず、そのノートPCの分解手順・方法をWebで確認する。

 以前取り上げた東芝のdynabook EX/33JTX/64Hなどは、CPUを交換するには基板を取り出さなければならず、かなり手間のかかる機種であるが、ネジ数本を外すだけで簡単にCPUを拝めてしまうものもある。

 Web検索でそのPCの機種名と共に「分解」などと打って、分解手順を調べる。必ずしも同一型番の分解手順である必要はない。上記のEX/33とTX/64のように、異なる機種でも近接した時期に同じメーカーによって製造されたノートPCは、筐体や構造が類似していることも多く、分解手順も似通っている場合が少なくない。従って、様々な機種で検索をかけ、丹念に画像を観察して類似する筐体の分解手順を見つけ出すことが肝心である。

 その手順を参考に、ようやく交換作業となる。特にCPUの交換自体の手順を示してくれているブログ等がある場合、その手順に従えば問題はなかろう。ACアダプタを抜き、バッテリを取り外して作業に取りかかる。

 CPUを初めて交換する場合、気を付けなければならないことの一つは、CPUグリスの扱いである。CPUグリスは、CPUの熱をヒートシンクに効率よく伝えるためにCPUとヒートシンクの間に塗布される熱伝導性の高いペースト状の潤滑剤である。これは必ず用意しておく。取り外したCPUに使われていたグリスは、できる限り熱伝導性を高く保ち、空気が入ることを避けるために、そのまま再使用することは望ましくないとされている。外したヒートシンクのコアプレートに付いているグリスは、必ずきれいに拭き取り、取り付けたCPUに新たにグリスを塗るようにする。この点については、より詳しい解説がなされている、PC自作の手解きに関するブログが数多くあるので、その一つか二つに目を通しておくとよい。

 交換後、電源を入れてもBIOSすら起動しない場合、最後の一あがきとしてCMOSクリアしてみるとよい(CMOSクリアについては「初期化について」参照)。基板上にあるCMOS用のボタン電池を外し、数分後元に戻すだけである。ノートPCの場合、容易に外せない機種もあるようだが。CMOSクリアすると、BIOSの設定や接続ディバイスやリアルタイムクロック(RTC、PCの内蔵時計のこと)等の情報が一旦全て消去される。これによってBIOSの誤作動による不具合が解消することもある。これで駄目なら、諦めて元のCPUに戻すか、別のCPUを試すことになる。

三、交換実例
 自作機を主に使用しているので、これまでノートPCのCPU交換を行った経験は多くないが、東芝のdynabook(「dynabookのCPU交換」)のほかに、NECのLaVieやHP(Hewlett-Packard、ヒューレット・パッカード)のProBookのCPUを交換したことがあるので、それらの画像を参考までに掲載しておく。

1. HP、ProBook 4540s (2012年11月発売) (「HP特有のエラー」参照)

 外出先などでPCが必要な場合に使用している。搭載されていたCPUは、Intel Core i3-3110M。これをi7-3612QMに交換している。CPUの主な仕様の比較は以下の通り。

i3-3110Mi7-3612QM
開発コード名Ivy BridgeIvy Bridge
発売日Q2'12Q2'12
コア数24
スレッド数48
周波数2.40GHz2.10GHz
TDP35W35W
対応ソケットFCPGA988FCPGA988

(1). HPのこのタイプの底面カバーは、簡単に取り外すことができる。図-1の丸枠の両リリースラッチを内側にスライドさせてバッテリパックを外し、再度リリースラッチをスライドさせて底面カバーを矢印の方向にスライドさせると取り外せる。

 図-1
 ProBook-1

(2). 図-2の丸枠のビス3本を外し、アルミ板をそこにしるされている矢印の方向にスライドさせて取り外すと、CPUクーラーが現れる。

 図-2
 ProBook-2

(3). 図-3のCPUファンを留めるビスとヒートシンクを留めるビスを外し、CPUファンを持ち上げると、ヒートシンクだけを取り出すことができる。

 図-3
 ProBook-3

(4). 現れたCPUソケットのマイナスネジを180度緩めると、CPUは取り外すことができる(図-4)。

 図-4
 ProBook-4

(5). PGAのCPUには、LGAのCPUにあるような誤装着防止のための切り欠き(cutout)はない。前述したように、PGAの場合、CPUの隅の一つにピンを配置せず、ソケット側のその隅にはピンホールを配置しないことにして(図-5)、誤装着を防いでいる。ダイの側の表面にはその個所を示す三角の印があるので、その部分がソケットのピンホールのない個所にくるようにCPUを装着する。

 図-5
 ProBook-5

2. NEC、LaVie LS150/F26W (2012年3月発売)

 カミさんが使っているPCである。Pentium B950をi7-2630QMに交換。両者の主な仕様比較は次の通りである。

B950i7-2630QM
開発コード名Sandy BridgeSandy Bridge
発売日Q2'11Q1'11
コア数24
スレッド数28
周波数2.10GHz2.00GHz
TDP35W45W
対応ソケットPGA988FCPGA988

(1). このLaVieも底面からCPUに簡単にアクセスできる。図-6の5か所のビスを外し、カバーを外すだけで、CPUやCPUクーラーを拝める。

 図-6
 LaVie-LS150-1

(2). 図-7の6か所のビスとCPUファン・コネクタを外すと、CPUクーラー一式を取り外すことができる。

 図-7
 LaVie-LS150-2

(3). 前述したようにCPUを固定するネジを回せば、CPUを交換できる(図-8)。

 図-8
 LaVie-LS150-3

(4). なお、この機種には図-9のように、CPUファンとヒートシンクの間を簡単に清掃することができる工夫がさなれている。この部分は非常に埃が溜まりやすく、溜まった埃は風をさえぎり、冷却性能を著しく低下させてしまうから、非常にありがたい心遣いである。ノートPCの利用者には、CPUの冷却に無頓着な人が少なくないようなので、注意を促しておきたい。

 図-9
 LaVie-LS150-4

3. NEC、LaVie LL750/D (2005年9月発売)

 これは、2005年製で少し古いが、Windows XPが動き、インタフェイスが豊富で、液晶も綺麗なノートPCとして今でも大事にしている。これもCPUを交換して使用していたので、参考までに挙げておく。Celeron M 360をPentium M 770に交換。

M 360M 770
開発コード名DothanDothan
コア数11
周波数1.40GHz2.13GHz
FSB400MHz533MHz
TDP21W27W
対応ソケットPPGA478PPGA478

 (1). 図-10の矢印のくぼみにマイナスドライバなどを差し込み、少し上に持ち上げるとカチッと音がして、ヒンジカバーが浮き上がる。これは、図-11のように電源ボタン等が配置されたプレートと一体となっており、両側からゆっくりと持ち上げて外す。ケーブル(フレキシブル・フラット・ケーブル、FFC)は、矢印のケーブル・ストッパを少し上方に持ち上げると抜ける。

 図-10                              図-11
 LaVie-LL750-1 LaVie-LL750-2

(2). キーボードは、図-12の矢印の方向にスライドさせ、同じくケーブル・ストッパを持ち上げて、取り外す。図-13の中央のアルミカバーの5か所のビスを外して、カバーを取り外す。

 図-12                              図-13
 LaVie-LL750-3 LaVie-LL750-4

(3). 図-14に見えるヒートシンクの3か所のビスを外して、ヒートシンクを取り外すと、図-15となる。

 図-14                              図-15
 LaVie-LL750-5 LaVie-LL750-6

四、改めて一言
 ひとたび分解されたノートPCに対しては一切の責任を負わないとするPCメーカーが当該BIOSの対応するCPUに関する情報を明らかにすることはない以上、CPUの交換は一か八かの博打になりかねない。しかし、上記の諸事項に留意し、果敢に挑んだ先人達の成果を参考にすれば、CPU交換も闇雲に怯える必要はない。とはいえ、徒労に終わるおそれも拭いきれないことは銘記すべきである。

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そんぷうし ふうえん

Author:そんぷうし ふうえん

忙中閑は、こっそりと見出す。
カミさんと子どもたちが寝静まるのを待って、夜な夜なPCの前に端座し、その不可思議なる箱の内奥にそっと手を入れては、悦に入る日々なのであります。
或るときは、ふらふらと知恵袋の回答者となって徘徊。
時としてその手はPC以外の内奥にも。


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