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NECのLaVieがLenovoのLaVieになる日

一、
 NECが、2010年度第3四半期の決算で、売上高が7207億円で前年同期比12.7%減、営業損失は135億円、経常損失は270億円となることを明らかにした直後に、PC事業におけるLenovoとの合弁を発表したのが2011年1月27日であった。これについては、「弱者連合」だの、「時代遅れ」だのと揶揄する記事も見られた。

 同年7月、出資比率NEC49%、Lenovo51%の持株会社「Lenovo NEC Holdings B.V.」が設立され、その傘下にNECのPC事業部門を分離して設立された新会社「NECパーソナルコンピュータ」とLenovoの日本法人「レノボ・ジャパン」が100%子会社として納まるという形で、NEC レノボ・ジャパン グループが発足した。

 その後NECは、2012年3月期(2011年度連結決算)に1102億円の赤字を計上した。2012年7月には株価も100円を割り込み、96円まで下落したそうな。言わんこっちゃない、ということに。

 しかし、やがてNECの各セグメントは堅調に転じ、不採算部門の切り離し、人員削減、重要性のない資産の売却などと相俟って、2012年度第3四半期累計は純利益115億円と黒字に転換、通期純利益予想は200億円となる見通しだという。NECレノボ・ジャパンも同様に業績は好調だそうである。
 先ずは、ご同慶の至りである。

二、
 NECのPCといえば、我が家にはLaVieが5台(うち4台は現役)、Mateが1台ある。PCを自作するようになってからは、既製のデスクトップを買う必要はなくなったが、ノートPCはNEC以外買ったことはない。【追記: しかし、残念ながら、その後子供達は東芝のdynabook、私はHPのProBookを使っている。(2016.4.3)】

 昨年の夏頃、カミさんが使っていたLaVieのHDDが不調となったため、HDDを交換すれば使えると考えて東芝のHDDを買ったが、Windows7の入った新しいLaVieが欲しいというので改めて5台目を購入した。買ってしまったHDDは、私のLaVieのHDDと交換して使うことにした。このLaVieは、キーのラバートップが古くなったので、同型のラバートップではないキーボードと交換して今も時折使用している。残りは子供達が使っている。

 ところがつい最近、新LaVieのHDDの調子がおかしくなり(S.M.A.R.T.情報の代替処理保留中のセクタ数が異常に増加し、バックアップ等が行えなくなった)、保証期間内であったので交換修理をNECパーソナルコンピュータにお願いすることにした。

 その対応が実に素晴らしいものであった。電話で症状を伝えると、修理に出すべきものとして、PC本体、ACアダプター、電源コード、保証書、必要事項を書き込んだ修理チェックシートを用意しておくように指示され、合意した日時に宅配業者が来て、それらを梱包して持って行ってくれるというのである。翌日、宅配業者に出し、なんと3日後には修理されて戻ってきた。たしかにHDDの交換という簡単な作業ではあるが、その迅速さは見事である。しかも梱包する手間も省けて、送料も不要である。元の梱包箱をなくした場合の梱包は面倒であり、送料は自己負担というところも多い。

 (※ 実は、このことだけを書くつもりでいたのだが、つい筆が滑り始めてしまった。)

 かつて「アフターサービス」などという言葉は和製英語で、海外では通用しない、"after-sales service"が正しいとよく言われたものだが、その日本企業の「アフターサービス」こそが企業のサービスないしサポートの亀鑑として世界から注目されてきたというのが、私の勝手な理解である。"1000 dollar car"とさげすまれていた日本車が、自動車大国アメリカで顧客の信頼を得て販売台数を伸ばしてきたのには、品質の高さだけでなく、きめ細やかな「アフターサービス」があったからだという話は、興味のなかった私の耳にも入った。
 今日、顧客満足度という指標は、消費者の購買動向を判断する上で、経営戦略においても重要視されていることくらいは、経済や経営に疎い私であっても知っている。PC業界に限れば、NEC、富士通、東芝などのサポートに対する満足度は非常に高いという調査をたびたび目にする。
 となると、この合弁事業でレノボ・ジャパンがPCサポートの窓口業務をNECパーソナルコンピュータに移管したというのは、当然ということになろうか。

 因みに、LaVieとほぼ同時にiPadも、カミさんのたっての所望により購入したが、半年以上経つ現在の使用頻度は97:3で、10キーの付いた新しいLaVieはこの上なく使い易いと言ってほぼ毎日開いているが、iPadは旅行などに出かけている時以外に触っている姿を見たことがない。

三、
 この合弁事業について私が懸念しているのは、合弁会社にはレノボが51%、NECが49%出資しているが、その設立5年後の2016年に、レノボがNECの同意を前提に全株を取得する権利を持っているということである。それは、LaVieの一ファンとしてNECのLaVieがLenovoのLaVieになってしまう寂しさからだけではない。Lenovoという中国系企業の持つ潜在的な危険性に対する憂慮からである。

 Lenovo(聯想集団)という会社の資本に中国政府が入っていることに漠然たる懸念を持っている。中国には純粋な民間企業というものは存在せず、大手の中国系企業は多かれ少なかれ中国政府ないし中国共産党の意向に沿って活動していると言われている。Lenovoは例外だとする説得的な根拠はあるのだろうか。2011年10月現在、 Lenovoの株式の34%をLegend Holdings(中国の投資持株会社)が所有し、その株式の36%を中国科学院が保有しており、それぞれ筆頭株主であるという("Lenovo" : http://en.wikipedia.org/wiki/Lenovo)。

 以前、レノボ・ジャパンの向井宏之代表取締役は、レノボの株式の13.3%をIBMが保有しており、34.4%は一般投資家が有しているとして、レノボは中国系企業ではなく、グローバル企業であると発言していた(http://www.lbs.co.jp/jp/pdf/service/global/t0602.pdf)。しかし、その後2011年3月には、米IBMは保有するレノボ・グループの株式のすべてを売却し、レノボとの出資関係を解消したと発表されている。IBMは2005年にPC事業をレノボに売却した際、レノボ株15%を取得したが、徐々に売却して出資比率を減らしていたとのことである。今や、ThinkPadは完全にLenovoのThinkPadである。

 レノボは、あくまで共産党独裁国家である中国の政府が資本上強い影響力を持つ国策企業であり、自由主義圏で言うところの通常のグローバル企業とは異なることを忘れるべきではなかろう。

 2006年4月、米議会の諮問機関である米中経済安全保障検討委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission)が、レノボは中国政府の資本上の支配権の及ぶ企業であることを理由に、安全保障上の観点からレノボ製PCを米国政府機関が使用することに懸念を表明した。それを受けて、5月、国務省は、レノボ製PCは機密情報を扱わないシステムに利用すると議会に説明したとのことである。米国の対応を杞憂にすぎると嗤うことができるであろうか。

 尖閣諸島を始め、西沙諸島、南沙諸島で中国が何を行っているのか。それのみならず、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマーに対して中国系企業が中国政府の意向を受けて何を行っているのか。冷静に注視し、見極める必要があろう。中国政府ないし中国共産党を甘く見てはならぬという意見を軽笑してはならない。

 調査会社のIDC(2013年1月10日、Press Release)あるいはGartner(2013年1月14日、Press Release)によれば、レノボの2012年度の世界PC市場における出荷台数は、HPを始め他のベンダーが軒並み減少させている中で、ASUSと並んで増加しており、前年度比14.2%ないし19.2%の伸びを見せているという。レノボが世界PC市場シェア第1位となるのも時間の問題であろう。現に、Gartnerの調査では、2012年度第3四半期だけだが、第1位を獲得したとされた(2012年10月10日、Press Release)。急成長を遂げるレノボの姿に、近時プレゼンスの拡大を闇雲に進めている中国の姿が重なって見えてしまうのも、故なきとは言えまい。

 一介の消費者にすぎない私が今さらとやかく言っても仕方のないことだが、当然のことながらレノボとの合弁にはそもそも反対である。経営戦略としては評価されないのかもしれないが、台湾企業のASUSやAcerとの合弁であれば、諸手を挙げて歓迎するところである。

 中国に対する牽制としては、東南アジアとの関係強化に加えて、台湾との連携を政財界ともにさらに深めることが重要であるに違いない。その上で、最近頓に現実味を帯びてきたロシアとの平和条約ないし安全保障条約の締結が実現すれば、中国及び北朝鮮の暴走に対する強力な抑止力となるはずである。
【追記:ところが、近時ウクライナ問題がこじれ、ついにプーチンは軍事介入に踏み切り、クリミアを手中に収めてしまった。もはや、北方領土問題の解決はおろか、ロシアとの平和条約締結の望みなど水泡に帰したと言ってもよいであろう。ロシアも度し難い国である。】

 もちろん、一私企業にそのような国家戦略をも考慮して活動することを要求することはできない。米国政府といえどもIBMのレノボへのPC事業売却を阻止することはできないのが、自由主義国である。それを承知の上で申し上げているのである。

 中国政府からの執拗な検閲の要求をはねつけ、それとの因果関係は不明なものの組織的なサイバー攻撃を受けて、ついには中国から撤退したGoogleの私企業としての姿勢に学ぶべきことがありはしないか。利潤追求の企業原理のみに従うのであれば、ある程度中国政府の要求を呑んで、そのまま中国に居続けた方がよかったのかもしれない。Googleの首脳陣の真意は定かではないが、Googleは、しかし、そうしなかったのである。

 合弁をしてしまった以上は、致し方ない。今後は、NECがそのPC事業をレノボに売り渡さないことを望むばかりである。3年後、NEC本体の事業がうまくいっていればよいが、業績が悪化していれば、レノボにPC事業を完全に売却してしまうということも起こりうる。老婆心ながら心配である。

 この合弁が発表された時、中国では、IBMに続き、「聯想が日本最大のPCメーカーNECの買収に成功」したという報道のされ方がなされ、「この6月までに聯想がNECに1億7500万ドルを支払い、5年後に2億7500万ドルを支払うことで、NECの個人用パソコン部門を完全買収する予定だ」と報じられていたということである。聯想集団の楊元慶CEOは、「企業買収はわれわれの最大の'武器'だ!」とTVで語っていたらしい(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2022)。中国側は最初からそのつもりなのである。

 愛すべきNECの諸氏にお願いしたい。いかなる事態が起ころうとも、どうかNECパーソナルコンピュータを手放さないで頂きたい。

 これは、PC業界に限った話ではない。様々な分野で中国系企業は日本企業を狙っているという。日本企業は矜持を持って応ずるものと信じる。


【追記1】
 (PCに関して何度かメールで情報を交換したことがあり、2014年7月、講義でPCのセキュリティについて話をする機会があるという方と、学生達にも知っておいてもらった方がよいだろうということで、確認し合ったことをここに付記しておく。)

 2013年7月27日付けのAustralian Financial Reviewに"Spyagencies ban Lenovo PCs on security concerns(諜報機関 Lenovo PCを禁止、安全保障の懸念より)"と題された記事によれば、「世界最大のPCメーカーであるLenovo製のコンピュータが、ハッキングに対し脆弱であるという懸念から、オーストラリア、米国、英国、カナダ及びニュージーランドの情報機関及び国防機関の極秘ないし機密のネットワークで使用禁止となっている」とされ、Lenovo製PC内に「バックドア」というマルウェアの存在やファームウェアの脆弱性が疑われる装備が施されている可能性があると研究機関の調査により指摘されて以降、2005年前後には既にこの禁止は行われていたとされている。

 これは、上述の米中経済安全保障検討委員会の表明と符合するものであり、Lenovo製PCの安全性を主張するには、これらの点を否定するに足りる充分な根拠が示される必要があろう。

 また、ここ2年程、米・カナダ・オーストラリア等で物議を醸している中国の通信機器メーカー、華為技術(Huawei、ファーウェイ)について、元NSA(National Security Agency、米国国家安全保障局)長官であり、元CIA長官のMichael Hayden氏は、2013年7月19日、同じくAustralian Financial Review(以下AFRと略す)のインタヴューに答えて、以下のように述べている("Transcript: Interview with former CIA, NSA chief Michael Hayden")。

AFR:「Huaweiは米国とオーストラリアにとって完全保障の明らかな脅威に当たるか。」
Hayden氏:「まさに、その通りだと思っている。」

AFR:「国内の英語圏の諜報ネットワーク内において、過去にHuaweiが中国のためにスパイ行為に関与したという確かな証拠が存在するのか。」
Hayden氏:「もちろん。それが事実だとする確信を疑うべき理由はない。それは専門家としての判断である。しかし、元NSA長官として、スパイ行為の具体的な事例や作戦事項についてはコメントすることはできない。」

 華為技術は、世界中の主要な通信事業者に通信機器を提供しており、NTTを始め、Softbank、KDDIなど日本の多くの事業者もこの機器を使用しているとされている。諜報活動にとって、通信事業者の通信機器を用いる方が個々のPCに細工を加えるよりもはるかに有効で効果的であることは、容易に想像がつく。日本においてのみ華為技術が諜報活動を行わない保証はどこにもない。

 以上からすれば、中国系企業の多くが中国の国策企業として活動しているという疑いは、限りなく黒に近いと言わざるを得ないであろう。

 そもそも、国家間では、諜報活動などやったりやられたりが当たり前のことだが、我々自由主義圏の人間が中国のやり方に違和感や不快感を感じるのは、中国においてはいわゆる「民間企業」が国家機関の一翼を担っており、それを隠れ蓑にしているという点であろう。(2014.7.18)


【追記2】
 また、2012年10月8日、米国下院の第112回議会に提出された報告書、"Investigative Report on the U.S. National Security Issues Posed by Chinese Telecommunications Companies Huawei and ZTE「中国の電気通信会社、華為及びZTEによりもたらされる米国国家安全保障問題に関する調査報告書」"によれば、華為のみならずZTEも危険と判断されている。

 ZTE(中興通訊)は、文字通り国有系企業とされており(KDDI総研R&A、2006年11月第2号)、2014年のAnnual Reportにも、筆頭株主(30.78%)たる Zhongxingxin(Shenzhen Zhongxingxin Telecommunications Equipment Company Limited)を始め、主要株主として名を連ねる企業の幾つかは、"State-owned corpotation"「国有企業」と明示されているのであるから(p.98)、ZTEが諜報活動を行うことは当然と言えなくもない。

 これに対し、華為は、2014年のAnnual Reportにも、"Huawei Investment & Holding Co., Ltd. (the "Company" or "Huawei") is a private company wholly owned by its employees."(p.105)と明記し、公式ウェブサイトでも、"Headquartered in Shenzhen, China, Huawei is a 100 percent employee-owned private company."と国有企業でないことを謳い文句にしており、その華為にあってすら、なお、かかる疑惑につき枚挙にいとまがないのである。(2014.8.7)


【追記3】
 ハイアール(海爾集団)は、2011年にPanasonicから旧三洋電機の白物家電事業の一部を買収したが、今年(2016年)1月、電機業界の巨人である米ゼネラル・エレクトリック(GE)のかつての本丸であった家電事業を買収すると発表した。3月には、美的集団(Midea Group)が東芝の白物家電事業を買収することで最終合意したと発表された。中国企業の買収攻勢は止まらない。しかし、中国経済の瓦解が始まっているとされる中で、これらの結末がむごいものとならないとは断言できまい。

 今般、ついに日本の老舗企業であるシャープが丸ごと外国資本に呑み込まれることになった。その相手が鴻海精密工業という台湾企業であったことは幸いというべきであろう。ただ、鴻海の郭台銘会長は、極めて中国に近い人物であり、2014年3月18日から4月10日まで続いた学生らによる台湾立法院占拠について、「民主主義ではメシは食えない」、「民主主義はGDPには何の役にもたたない。民主主義が国家の重要な人材、政府のエネルギー、治安維持の警察力を無駄に浪費」しているなどと発言しているようで(@niftyニュース)、手放しでは歓迎できないところである。(2016.4.3)

tag : NECレノボLenovoLaVieHuawei華為ZTE中国系企業

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そんぷうし ふうえん

Author:そんぷうし ふうえん

忙中閑は、こっそりと見出す。
カミさんと子どもたちが寝静まるのを待って、夜な夜なPCの前に端座し、その不可思議なる箱の内奥にそっと手を入れては、悦に入る日々なのであります。
時としてその手はPC以外の内奥にも。


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